「気管支喘息の患者さんを受け持つのが初めてで不安」「気管支喘息の看護のポイントは何?」このような悩みのある新人看護師の方や学生の方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、小児気管支喘息の看護のポイントと看護過程の展開について解説しています。最後までご覧いただくと、以下の4のことがわかります。
- 気管支喘息の病態生理
- 急性期(発作時)の看護
- 長期的管理(非発作時)にむけた看護
- 小児気管支喘息の看護過程の実際について

記事後半では、ペーパーペイシェントを用いた看護展開もご紹介!
この記事が、小児気管支喘息について理解を深めたい小児科看護師の方や、看護学生の方の参考になりましたら幸いです。
小児気管支喘息の基礎知識


小児気管支喘息の看護について理解するために、最初に病態生理について簡単に触れます。
小児気管支喘息とは?
小児気管支喘息は、発作性に生じる気道狭窄によって、喘鳴をともなう呼吸困難を繰り返す疾患です。
以下に示すような「刺激因子」が発症のトリガーとなります。
- アレルゲン
- 呼吸器感染症
- 受動喫煙
- 空気感染
- 運動
- 気象
- 薬物
- ストレス
- 食品添加物 など
気道の炎症は、発作時だけでなく非発作時にも生じているため、治療のカギは「いかに発作を防ぐか」であり、長期的につきあっていく必要のある疾患です。
症状
気管支喘息では、喘鳴をともなう呼吸困難を繰り返します。
おもな症状は、喘鳴・咳嗽・呼気延長であり、症状は夜間から明け方にかけてとくに悪化する傾向があります。
喘息発作には軽度なものから、生命の危機につながるような重度なものもあり、症状の程度は発作の大きさによって異なります。努力呼吸やチアノーゼが出現している場合は、発作が大きく治療が急がれる状態です。



症状が夜から明け方にかけて悪化しやすいのには、副交感神経の緊張による気管支の収縮や、睡眠時の分泌物貯留などが関係するといわれています。
診断
気管支喘息の診断の際は、以下の項目を確認します。
- 呼気性喘鳴
- 呼気延長
- 胼胝級
- 努力呼吸(陥没呼吸・肩呼吸・起坐呼吸・鼻翼呼吸など)
- 連続性ラ音の聴取
- 気管支拡張薬への反応
- 症状の反復性
また、喘息発作は症状の程度により「小発作」「中発作」「大発作」「呼吸不全」の4つに分類されます。
小発作 | 中発作 | 大発作 | 呼吸不全 | |
---|---|---|---|---|
喘鳴 | 軽度 | 明らか | 著明 | 減少または消失 |
SpO2 | ≧96%以上 | 92%~95% | ≦91% | <91% |
陥没呼吸 | なし~軽度 | 明らか | 著明 | 著明 |
歩行 | 急ぐと苦しい | 苦しい | 歩行できない | 歩行できない |
睡眠 | 眠れる | ときどき目を覚ます | 障害される | |
話し方 | 一文区切り | 一句区切り | 一語区切り | 話せない |
参考:厚生労働省「小児気管支喘息の薬物療法に適正使用ガイドライン」をもとに作成
小児気管支喘息の治療
小児気管支喘息の治療は「発作時の治療」と「非発作時の治療」に分けられます。
発作時の治療
気管支喘息の治療法は、発作の強度や年齢によって異なります。ここでは、ガイドラインに記載されている治療法を簡単にまとめています。
- 小発作:β2刺激薬吸入→効果が乏しければ吸入を反復
- 中発作:β2刺激薬吸入反復→基本的には入院管理・酸素投与・ステロイド投与
- 大発作:上記に加え、イソプロテレノール持続吸引・アミノフィリン持続点滴
- 呼吸不全:イソプロテレノールやアミノフィリンに対する効果を感じにくい場合、気管内挿管・人工呼吸器管理
参考:一般社団法人日本小児アレルギー学会「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」
非発作時の治療
非発作時の目標は「気道の炎症を抑え、発作がない状態を長期的に維持すること」です。
治療の基本は以下の2つです。
- 吸入ステロイド薬
- 抗アレルギー薬の内服
「ステロイド」に抵抗感を示す親御さんもいます。
しかし、ステロイドの副作用に関して、発作予防のために使用する吸入ステロイドの方が、予防治療をせずに喘息発作を起こして点滴から投与するステロイドの量よりも、より安全だとされています。※1
保護者が正しく理解し納得したうえで治療にすすむことが大切です。
また、喘息の発作予防に効果的なステロイドの吸入薬は、局所的な副作用である「口腔カンジダ症」を発症する可能性があります。吸入薬の使用方法を正しく理解し、吸入後に含嗽が必要です。
気管支喘息の看護のポイント
気管支喘息の看護のポイントについて、発作時と非発作時に分けて解説します。
発作時の看護のポイント
発作時の看護のポイントは、以下の2点です。
- 呼吸困難の緩和
- 呼吸状態悪化の防止と早期発見
頻繁な観察による呼吸状態のアセスメントと、悪化の兆候の早期発見に努めることが重要です。
また、医師の指示に基づいた正確な投薬や酸素投与と、薬剤の副作用への注意も欠かせません。
乳幼児は酸素投与を嫌がることがあるため、患児の受け入れに応じて、カニューラ・マスク・インスピロンのなかから効果的に酸素吸入ができるデバイスを選択しましょう。



2歳未満のいわゆる「乳児喘息」は、状態が急激に悪化することがあります。啼泣によって呼吸困難が増強するため、とにかく泣かせないことが大切です。安心感を与えられるよう意識しましょう。
非発作時の看護のポイント
気管支喘息は長期にわたってコントロールが必要な疾患です。
「症状がないから」といって自己判断で治療を中断すると、発作を起こしやすくなります。
患児と家族が病態について正しく理解し、効果的なセルフケア行動をとれるようにサポートするのが大切なポイントです。
喘息発作で入院を繰り返している患児にであったら、時間があるときに初発時から今までの経過をゆっくりと振り返ってみて下さい。何かしらの管理不足がある可能性があります。
もちろん、適切な管理をおこなっていても発作が起こることもあります。
看護過程①アセスメントと看護診断


ここでは、ペーパーペイシェントを活用して、看護展開をおこなっていきます。
現病歴
3歳の男児。生後8か月頃より感冒のたびに喘鳴を認めており、1歳6ヵ月の際に「気管支喘息」と診断された。これまでに年に2~3回ほど発作を繰り返し、外来で吸入治療を受けていたが、入院歴はない。非発作時の治療としてモンテルカスト(ロイコトリエン受容体拮抗薬)を内服しているが、母の判断で中断することがあった。
3日前より、咳嗽と軽度の喘鳴が出現した。飼育中の犬と遊んだ後に咳嗽が悪化し、昨晩から呼吸困難が増強した。自宅でSABA吸入を2回実施したが、症状は改善せず、ほとんど眠れなかった。朝になり喘鳴が悪化したと判断した。水分や食事が摂れないためかかりつけ医を受診した。その際呼吸数50回/分、SpO2:91%であったため、入院が必要との判断で当院ERを受診した。
受診時、患児は興奮気味で落ち着きがなく、呼気延長、鼻翼呼吸、皮膚乾燥、尿量減少を認めた。気管支喘息大発作の診断で入院となった。母は「病院に行くタイミングがわからなかった」「こんなにひどくなったのは初めてで慌ててしまった」と話している。
アセスメント
男児は、気管支攣縮と気道炎症による換気障害を認めており、努力呼吸も出現している。呼気延長と喘鳴の増悪、SpO₂の低下(91%)、頻呼吸(50回/分)があり、気管支喘息大発作の状態であると考えられる。換気不全は今後ますます進行する可能性が高い。さらに、興奮状態や発汗増加がみられることから、低酸素による交感神経の亢進が考えられる。水分摂取量低下による脱水も生じていると考えられる。
また、母親は発作の悪化に気付いていたが、「どのタイミングで病院に行けばよいのかわからなかった」と述べており、喘息の重症度評価が適切にできていなかった。このまま気道閉塞が進行すると呼吸不全に陥るリスクがあるため、発作時の治療が早期に必要である。
普段からコントローラーとして内服の指示があったが、母の判断で中断されていたことがあった。今後自宅で適切な管理ができるよう、再度教育・指導が必要である。
看護診断
今回は、アセスメントをもとに、3つの看護診断をあげました。
- 喘息発作による呼吸困難がある
- 経口摂取量低下により脱水のリスクがある
- 疾患や治療への知識不足
それでは、看護計画をみていきましょう。
看護過程②看護計画
3つの看護問題に対して、看護計画を立案しましょう。
喘息発作による呼吸困難がある
看護目標
喘鳴と努力呼吸が消失し、SpO2 95%以上を維持できる
OP
- バイタルサイン
- 喘鳴と咳嗽の有無と程度
- 呼吸音
- 努力呼吸の有無と程度
- SpO2値
- チアノーゼの有無
- 分泌物の有無と性状
- 活気
- 機嫌
- 活動性
- 会話の上体
- 睡眠状態
- 表情
- 発言
TP
- SpO2値をモニタリングする
- 医師に指示された薬剤を確実に投与する
- 酸素投与を確実におこなう。経鼻カニューラは、抵抗感が少なく受け入れやすい。酸素マスクを使用する場合は、SpO2低下時は直接装着せず、手で持って口元近くに当てる。
- 薬剤投与後は効果を評価し、改善がなければ医師へ報告する
- ファウラー位や抱っこによって上体を挙上し、呼吸が楽にできる体位に整える。抱っこや安楽枕の使用も取り入れる
- 安静を保てるよう、ベッド上での遊びを促す
- 分泌物を吸引する
- ジャクソンリースと吸引物品を常にベッドサイドに置いておく
- 急変の兆候がある場合、救急カートを準備しすぐに医師へ連絡する
- 吸入器を怖がる場合は、音がしないタイプの吸入器を選ぶ(メッシュ式)
- 患児が落ち着いて過ごせるよう、声かけは優しくおこなう
- 看護師をみて啼泣する場合は、啼泣による状態悪化を防ぐために、ケアをまとめておこなう
- 処置は保護者に抱っこしてもらいながら実施し、安心感を与える
- 夜間の巡視時に、物音やおむつ交換の刺激で起こさないよう注意する
喘鳴の急な消失・SpO2の低下・呼吸数と心拍数の増加・意識レベルの低下・チアノーゼの出現
これらがみられたら急変の可能性あり!患児のそばを離れず、ナースコールで他の看護師や医師に応援を要請しましょう。患児の様子を注意深く観察しながら、酸素投与をおこない、応援の到着を待ってください。
EP
- 安静保持の必要性を説明し、理解を得る
- 酸素投与や点滴管理の必要性を説明し、本人および家族の協力を得る
- [急に話さなくなった」[呼吸がしんどそうになった」[皮膚の色が悪い」などの症状が出現したら、すぐにナースコールするよう指導する
経口摂取量低下により脱水のリスクがある
喘息発作の呼吸困難により、食事や水分の摂取が困難になることがあります。脱水のリスクを念頭におき、事前に介入できるとよいでしょう。


看護目標
脱水症状がみられない
OP
- 水分摂取量
- 水分摂取の頻度
- 口唇・皮膚乾燥の有無と程度
- 尿量
- 尿回数
- ツルゴール反応の有無
- バイタルサイン



「ツルゴール反応」とは、皮膚の張りの程度から脱水を評価する指標です。皮膚をつまんでから離したときに、つまんだ皮膚がなかなかもとに戻らないと、脱水の兆候があるといえます。
TP
- 少量ずつこまめに水分摂取を促す
- 水分を嫌がる場合は、ゼリーや汁物など、水分を多く含む食品の摂取をすすめる
- 点滴を確実におこなう
- 血圧の低下や頻脈がみられる場合、ただちに医師へ報告する
EP
- 点滴管理の必要性を説明する
- 水分摂取の重要性を説明する
- 「水分が全くとれない」「尿量が減った」という状況があれば、すぐに知らせてもらう
知識不足により疾患管理が適切におこなえていない
今回の例では、家族の知識や管理が不足しています。今後も不適切な管理が続くと、発作を繰り返す可能性があり、母子ともに負担がかかるでしょう。退院前に十分な介入が必要です。
学童期以降の場合は、家族だけでなく、患児本人の理解や管理を促す関わりを意識することが大切です。
看護目標
長期的な管理が必要であることを理解でき、自分(家族)の言葉で説明できる
OP
- 家族の発言
- 患児の発言
- 医師や薬剤師からの説明への理解度
TP
- 病態や今後の管理方法について話し合う
- 必要に応じて、医師や薬剤師へ説明を依頼する
- 内服薬や吸入薬の使用方法、発作時の受診の目安などをまとめたパンフレットを作成する
EP
- 発作を予防するには、非発作時の管理が重要であることを指導する
- 内服薬は症状がなくてもやめないよう指導する
- 吸入薬を使用するタイミングと回数について指導する
- 吸入ステロイド薬を使用する場合は、使用方法について正しく説明する
- アレルゲンの除去の重要性を説明する
- 保育園へ情報共有し、園生活のなかで症状が出現したらすぐに保護者へ連絡してもらうよう伝える
- 発作の際は「意識がうつろ」「興奮状態」「チアノーゼがある」などの場合救急要請を検討するよう指導する
- 小発作や中発作であっても、吸入への反応が乏しい場合はただちに受診するよう伝える



犬の飼育を中断するのは難しいでしょう。寂しいです。
ペットと暮らす場合は、接触時間を減らす、別室で過ごすなど、工夫しましょう。
まとめ
この記事では、小児気管支喘息の看護について、実際に看護過程を展開しながら解説しました。
小児気管支喘息は、発作の程度によって治療方針が異なり、看護のポイントも異なります。病態を正しく理解し、発作の程度や症状を的確にアセスメントし、一人ひとりの患児に合わせた看護を提供しましょう。
参考文献
- ※1 中央法規「シリーズナーシングロードマップ 疾患別小児看護 基礎知識・関連図と実践事例」初版第4刷
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